個人事業主と法人、どっちで始める?「売上900万円で法人化」は本当?
更新日:2026-10-03 公式情報確認日:2026-10-03
お店を始めるとき、「まず個人事業主でよいのか」「最初から会社を作るべきか」は迷うところです。結論からいうと、売上900万円という数字だけでは決められません。
まず見たいのは、経費を引いた利益の見込み、社会保険を含めた継続負担、取引先の条件、これからの事業計画です。この記事では、小規模店舗の開業を考えている方に向けて、判断の順番を整理します。
900万円は売上ではなく課税所得の話
国税庁の所得税の速算表では、課税所得900万円以上〜1,800万円未満が33%の区分です。「900万円を超えたら」ではなく900万円以上であり、そもそも売上に対する区分ではありません。また、1,800万円以上には別の税率区分があります。国税庁の所得税率表
ここでは、次の3つを分けましょう。
| 言葉 | 見ているもの | 判断するときの注意 |
|---|---|---|
| 売上 | お店の商品・サービスを販売した金額 | そのまま手元に残る金額ではない |
| 事業所得 | 原則として総収入金額から必要経費を差し引いた金額 | 売上以外の事業収入や青色申告特別控除なども確認する |
| 課税所得 | 所得税を計算する基になる金額 | 総合課税では各種所得の合計や所得控除を踏まえて計算する |
同じ売上でも、仕入れ・家賃・人件費などで利益は変わります。さらに、他の所得や所得控除も関係するため、「売上=課税所得」にはなりません。事業所得のしくみ、総合課税制度
33%は、売上全額や所得全額に一律でかかる負担率でもありません。 速算表では、その区分の税率を掛けたあとに控除額を差し引きます。復興特別所得税などは別に考える必要があり、所得税率と法人税率の数字だけを比べて有利不利を決めるのは避けましょう。
課税売上高1,000万円は別の判定基準
消費税では、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務が免除されます。基準期間は、個人事業者では原則前々年、事業年度が1年の法人では原則前々事業年度です。
ただし、インボイス発行事業者として登録している場合は、1,000万円以下でも免除されません。 特定期間の判定や課税事業者の選択などにも例外があります。特定期間の判定では、一定の場合に課税売上高に代えて給与等支払額を使えます。国税庁の納税義務の免除の説明
900万円の所得税率区分と、1,000万円の消費税判定は別の話です。どちらも「この売上になったら法人化する」という基準ではなく、今年の売上だけで今年の消費税が決まるわけでもありません。
個人か法人かは4つの観点で比べる
次の表は、レジ選びナビが提案する検討の順番です。どちらかを自動的に有利と判定する表ではありません。
| 観点 | 個人で始める場合に整理すること | 法人で始める場合に整理すること |
|---|---|---|
| 利益と生活費 | 経費を引いた利益から、税金・保険料・生活費を見込む | 会社に残す資金と、役員報酬などで個人が受け取る金額を分けて試算する |
| 継続負担 | 現在の保険加入状況と、採用した場合の手続きを確認する | 社会保険の会社負担・本人負担、会計や申告の費用を見積もる |
| 取引先 | 個人名義で必要な契約ができるか確認する | 法人名義を求める具体的な取引があるか確認する |
| 事業計画 | まず一店舗で試すのか、どこまで自分で運営するのか整理する | 共同経営、採用、出店などの計画に会社という形が必要か検討する |
たとえば、まだ売上の見通しが立たず、法人であることを求める取引もないなら、個人で始める案と法人で始める案を、毎月の負担まで並べて比較してみてください。逆に、具体的な契約や共同経営の事情があるなら、売上額を待つより先に事業形態の相談をする意味があります。
「法人なら信用が上がる」「個人なら必ず安く済む」とは限りません。取引条件は相手に確認し、税金と社会保険を合わせた試算を税理士や社会保険労務士に相談すると、判断材料を揃えやすくなります。
一人会社でも社会保険を確認する
法人の事業所は、事業主のみの場合を含め、健康保険・厚生年金保険の強制適用の対象です。「従業員を雇っていないから関係ない」とは考えないでください。ただし、事業所の適用と、一人ひとりが被保険者に該当するかは別の確認です。役員の報酬・働き方など個別の事情は年金事務所へ確認しましょう。日本年金機構の適用事業所と被保険者の説明
保険料には本人負担だけでなく事業主負担もあります。たとえば厚生年金保険料は、事業主と被保険者で半分ずつ負担します。会社を作るときは、本人の手取りと会社から出ていく費用を分けて見積もることが大切です。日本年金機構の保険料のしくみ
個人事業でも、業種・従業員数などによって適用対象になります。「個人事業なら社会保険の手続きは不要」と一律に判断することもできません。
個人で始めるなら青色申告の条件も確認
2026年分の所得税では、青色申告特別控除は一定の要件を満たすと最高65万円です。65万円がそのまま戻ってくる制度ではなく、所得金額から差し引く控除です。
最高65万円の適用には、複式簿記などの55万円控除の要件を満たしたうえで、期限内のe-Tax申告、または要件を満たす優良な電子帳簿の保存と必要な届出などが求められます。開業届やサービスの会員登録だけで自動適用されるものではありません。国税庁の青色申告特別控除の説明
青色申告をするための承認申請にも期限があります。原則はその年の3月15日、その年の1月16日以後に新しく開業した場合は開業日から2か月以内です。開業準備と並行して確認してください。国税庁の青色申告制度
なお、ここでの最高65万円の説明は2026年分を対象にしています。2027年分以降は控除制度の変更があるため、対象年の条件を改めて確認してください。国税庁の2027年分からの控除に関する案内
決める前に用意したいメモ
- 毎月の売上見込みと、仕入れ・家賃・人件費などの経費
- 自分や家族の生活に必要な金額と、事業に残したい資金
- 現在の保険加入状況、役員報酬の案、採用の予定
- 取引先が求める契約名義とインボイスの要否
- 開業時の手続き・会計・申告を誰が担当するか、その費用
- 一店舗から始めるか、共同経営や追加出店を考えているか
このメモを個人・法人の両方の案で比べ、形を決めてから、その形に必要な手続きやサービスを選ぶのがおすすめです。書類作成の便利さだけで、法人化そのものを決める必要はありません。
お店の設備予算は、小さな飲食店のレジ費用も参考に、事業形態とは分けて整理できます。
よくある質問
売上900万円になったら法人化した方がよいですか
売上だけでは判断できません。900万円は所得税の課税所得の税率区分に関係する金額です。利益、社会保険、取引先の条件、事業計画を合わせて比較してください。
課税所得が900万円になると全額に33%かかりますか
一律に全額の33%を納めるという意味ではありません。速算表では該当区分の税率を掛けたあと、控除額を差し引いて所得税額を計算します。売上に33%を掛ける計算でもありません。
課税売上高1,000万円以下なら消費税はかかりませんか
基準期間では原則免除の基準になりますが、インボイス登録などの例外があります。対象期間を含めて確認する必要があり、法人化するかどうかとは分けて考えます。
従業員がいない法人でも社会保険の確認は必要ですか
必要です。法人事業所は事業主のみの場合も強制適用の対象です。個人の加入要件については報酬や働き方などに応じて年金事務所へ確認してください。
個人で始めれば青色申告特別控除65万円を必ず使えますか
使えるとは限りません。2026年分は、承認申請、記帳、決算書、期限内の申告に加え、e-Taxなどの要件を満たす必要があります。所得金額による上限もあるため、最高額が一律に適用されるわけではありません。
まとめ
個人事業主と法人の選択は、「売上900万円」を合図に決めるものではありません。利益と継続負担を見積もり、取引条件と今後の計画を照らし合わせることから始めましょう。
この記事は判断材料の整理であり、個別の税務上の有利不利を判定するものではありません。相談するときは、売上だけでなく経費・生活費・保険・事業計画のメモも一緒に持っていくと、具体的な比較につながります。
